事件を風化させないために

2026年7月30日

東京・八王子のスーパー3人射殺:東京・八王子スーパーナンペイ事件 3人射殺29年、残る謎 | 毎日新聞

スーパーナンペイ事件はなぜ未解決なのか

立地、盆踊り、科学捜査を調査会社の視点から考察する

1995年7月30日、東京都八王子市で、パート従業員とアルバイトの女子高校生2人、合わせて3人が拳銃で殺害される事件が発生しました。

一般に「スーパーナンペイ事件」と呼ばれる、八王子スーパー強盗殺人事件です。

事件発生から31年が経過した現在も、犯人は逮捕されていません。警視庁は捜査を継続しており、2026年3月には、事件当時の現場周辺を再現した3D動画を公式サイトに掲載し、改めて情報提供を呼びかけています。

本稿では、事件当日の時間帯、現場の建物構造、周辺環境、当時と現在の科学捜査の違いを整理したうえで、なぜ捜査が難航しているのかを調査会社の視点から考察します。

なお、警察が公表していない犯人像や犯行動機を断定するものではありません。確認された事実と、調査上考えられる可能性を区別して記載します。

事件の概要

警視庁によると、事件が発生したのは1995年7月30日、日曜日の午後9時15分頃です。

現場は、八王子市大和田町4丁目にあったスーパーナンペイ大和田店の2階事務所でした。

事務所内では、パート従業員の女性1人と、アルバイトの女子高校生2人が拳銃で殺害されました。警視庁は、3人について「無抵抗な女性従業員」と説明しています。犯人は現在も逃亡中です。

警察が事件名を「大和田町スーパー事務所内けん銃使用強盗殺人事件」としていることから、強盗目的の可能性を含めて捜査されてきました。

ただし、犯人の具体的な目的や、犯行前にどの程度店舗の事情を把握していたのかについては、現在も明らかになっていません。

盆踊り終了から約9分後に発生した事件

事件当日は非常に暑い日で、現場近くの北の原公園では、午後6時から盆踊りが開催されていました。

警視庁によると、盆踊りが終了したのは午後9時6分頃です。事件が発生した午後9時15分頃とは、約9分しか離れていません。

ここで注意しなければならないのは、

「盆踊りの音によって銃声がかき消された」

と断定することです。

警視庁が示している時刻によれば、犯行が行われた頃には盆踊りは既に終了しています。したがって、祭りの音と銃声を直接結び付けることには慎重でなければなりません。

一方、調査の視点では、盆踊りが終わった直後の人と車の流れに注目する必要があります。

祭りが終了すれば、参加者が一斉に帰宅を始めます。徒歩、自転車、送迎車などが周辺を行き交い、普段とは異なる人の流れが発生します。

通常であれば目立つ見慣れない人物や車両でも、地域外から来た祭りの参加者や送迎車の中に紛れれば、周囲の人の記憶に残りにくくなる可能性があります。

これは確認された事実ではなく推測ですが、犯人が地域の行事や周辺状況を事前に把握していた場合、盆踊りの音ではなく、終了直後に生じる人流や車両の動きを利用した可能性は、検討すべき視点の一つです。

外階段から直接入ることができた2階事務所

現場の建物は、1階がスーパーマーケット、2階が事務所という構造でした。

警視庁によると、2階の事務所へ行くには、店内ではなく外階段を使用する構造になっていました。

この構造は、犯人の接近経路を考えるうえで重要です。

店内を通らず外階段から事務所へ行くことができれば、売場にいる客や従業員から姿を見られずに、2階へ接近できる可能性があります。

同時に、犯行後も階段を下りれば、すぐに屋外へ出ることができます。

調査の現場では、建物の入口だけを見るのではありません。

  • どこから近づけば目立たないか
  • 建物のどの部分が周囲から死角になるか
  • 出入口から道路まで何秒で移動できるか
  • 徒歩、自転車、車のどの手段が使えるか
  • 周辺施設の営業時間や人通りはどうか

こうした要素を一つずつ確認します。

犯人が偶然この店を選んだのか、それとも、2階事務所の位置や外階段の存在を知ったうえで接近したのかは分かっていません。

しかし、犯行が2階事務所で行われていることを考えれば、犯人が建物の構造や従業員の動きを、ある程度把握していた可能性は否定できません。

犯人は店舗内部の事情を知っていたのか

事件を考察する際、重要な論点の一つが、犯人の事前知識です。

犯人は、次のような事情を知っていたのでしょうか。

  • 店舗の閉店時刻
  • 従業員が事務所へ上がる時間
  • 2階事務所へ続く外階段の位置
  • 事務所内にいる人数
  • 売上金の管理方法
  • 周辺で盆踊りが行われていること

これらを把握していたとすれば、一定の下見や情報収集を行った可能性が考えられます。

一方で、犯人が偶然、外階段や事務所の存在を発見して犯行に及んだ可能性も、完全には排除できません。

未解決事件の考察では、一つの筋書きを作り、その筋書きに都合のよい情報だけを集めてはいけません。

調査では、仮説を立てると同時に、その仮説が間違っている可能性も検討します。

なぜ未解決のままなのか

この事件が未解決となっている理由を、

「証拠が何もなかったから」

と考えるのは正確ではありません。

現場からは、指紋や弾丸など、犯人につながる可能性のある資料が収集され、長期間にわたって捜査が続けられてきました。

しかし、捜査において重要なのは、単に不審な人物や物証を見つけることではありません。

その人物と犯行を、客観的証拠によって結び付ける必要があります。

例えば、ある人物の指紋が遺留物から発見されたとしても、

  • その指紋はいつ付着したのか
  • 犯行時に付着したものなのか
  • その人物が現場にいたのか
  • 被害者を拘束したのか
  • 拳銃を使用したのか
  • 殺害行為に関与したのか

という点は、それぞれ別に検証しなければなりません。

疑わしいことと、犯罪を立証できることは同じではありません。

粘着テープから検出された指紋

被害者を縛るために使用されたとされる粘着テープからは、指紋の一部が検出されています。

2015年のテレビ朝日の報道では、この指紋は被害者や捜査員のものとは一致せず、犯人が被害者を縛った際に付着した可能性があると報じられました。

また、既に死亡していた男性の指紋と複数の特徴点が一致したとの報道もありました。

ただし、指紋の一部に共通点があったとしても、それだけで同一人物であることや、事件への関与を確定することはできません。

さらに、粘着テープの製造、販売、保管、使用までの過程で、犯人以外の人物が触れていた可能性も検討する必要があります。

この男性が事件に関与したと、警察が公式に認定したわけではありません。特定の人物を犯人とみなすことはできません。

この事例は、物証が存在していても、それが犯人を特定する決定的証拠になるとは限らないことを示しています。

1995年当時にも科学捜査は存在していた

「当時は科学捜査がなかったため、事件を解決できなかった」

という説明も正確ではありません。

1995年当時にも、警察では次のような科学捜査が行われていました。

  • 指紋鑑定
  • 弾丸や薬きょうに関する鑑定
  • 血液型鑑定
  • DNA型鑑定
  • 足跡や靴跡の鑑定
  • 写真、映像、音声の分析

警察庁の警察白書によると、科学警察研究所は1989年にDNA型鑑定を導入し、1992年から都道府県警察の科学捜査研究所でも順次導入が進められていました。(npa.go.jp⁠)

したがって、スーパーナンペイ事件が発生した1995年にも、DNA型鑑定そのものは存在していました。

ただし、当時の鑑定技術と現在の鑑定技術では、精度や必要となる試料の量、照合できるデータの範囲が異なります。

現在のDNA型鑑定でできること

現在、警察のDNA型鑑定では、主にSTR型検査法が用いられています。

STR型検査法は、DNAの中にある特定の塩基配列の繰り返し回数を調べ、個人を識別する方法です。

警察庁は、一定の条件下では極めて高い精度で個人識別が可能であると説明しています。

また、警察は、被疑者から採取したDNA型記録と、事件現場に残された遺留DNA型記録をデータベースに登録し、犯人の割り出しや余罪の確認などに活用しています。

技術の進歩によって、従来よりも少量の試料からDNA型を検出できる可能性も高くなっています。

そのため、過去の事件で保存されている遺留物を、現在の技術で再鑑定することが、事件解決につながる場合があります。

ただし、スーパーナンペイ事件で保存されている具体的な資料について、現在どのような再鑑定が可能なのかは公表されていません。

「現在の技術で鑑定すれば必ず犯人が分かる」と断定することはできません。

現在の事件で活用されるデジタル証拠

仮に同様の事件が現在発生した場合、1995年当時とは比較にならないほど多くのデジタル情報が残る可能性があります。

例えば、

  • 店舗や周辺住宅の防犯カメラ
  • 車載カメラやドライブレコーダー
  • スマートフォンに保存された位置情報
  • 通話やメッセージの履歴
  • 写真や動画
  • Wi-Fiへの接続記録
  • カーナビなどの車載機器
  • 電子決済や交通系ICカードの利用記録

などです。

警察庁は、押収したスマートフォンから、通信履歴、位置情報、写真などの証拠となる情報を抽出、可視化する解析を行っていると説明しています。

また、電子機器に保存された電磁的記録を抽出し、人が確認できる形に変換して証拠化する「デジタル・フォレンジック」も、現在の犯罪捜査で重要な役割を担っています。

現在の社会では、一人の人物が移動すると、複数の場所や機器に記録が残る可能性があります。

それらを時系列でつなぎ合わせることで、接近経路、滞在時間、逃走経路などを検証できます。

科学捜査は証拠を作り出す技術ではない

科学技術が進歩しても、過去の事件を必ず解決できるわけではありません。

科学捜査は、存在しない証拠を作り出す技術ではないからです。

撮影されていない映像を復元することはできません。

保存されていない位置情報を後から取り戻すこともできません。

DNA型鑑定についても、

  • 試料が残っていない
  • 試料の量が少な過ぎる
  • 経年劣化している
  • 複数人のDNAが混在している
  • 犯人とは無関係な人物のDNAである

といった場合には、明確な結論を得られないことがあります。

高度な分析結果が得られたとしても、その結果が犯行とどのようにつながるのかを、別の証拠によって裏付ける必要があります。

調査会社の視点から見る「証拠の鎖」

この事件から改めて感じるのは、未解決事件とは、必ずしも「警察が何も分からなかった事件」ではないということです。

多くの証言や物証が集まり、複数の人物や可能性が検討されても、最後に犯人と犯行を結び付ける決定的な証拠が不足している場合があります。

調査の仕事でも同じです。

違和感がある。
行動が不自然である。
周囲の評判が悪い。
本人の説明に矛盾がある。

こうした事情は、調査を開始する理由にはなります。

しかし、それだけで不正や違法行為が立証されたことにはなりません。

重要なのは、

  • いつ
  • どこで
  • 誰が
  • 誰と
  • 何をしたのか

を、写真、映像、記録、文書、証言などによって確認し、第三者が検証できる形で残すことです。

一つの証拠だけで結論を出すのではなく、複数の証拠が互いに矛盾せず、一本の流れとしてつながっているかを確認します。

これが「証拠の鎖」です。

未解決事件を風化させない意味

事件発生から31年という年月は、あまりにも長いものです。

時間が経過すれば、人の記憶は薄れ、関係者の生活環境も変わります。証言を得ることは次第に難しくなります。

一方で、長い年月を経たからこそ話せるようになる人が現れる可能性もあります。

当時は重要だと思わなかった光景や会話が、改めて事件との関係を持つこともあります。

また、以前は十分に分析できなかった物証が、新しい技術によって再評価される場合もあります。

警視庁が現在も情報提供を求め、現場周辺を再現した3D動画を公開していることは、この事件の捜査が終わっていないことを示しています。

未解決事件を正確に語り継ぐことは、単なる過去の振り返りではありません。

新たな記憶や証言を引き出し、事件解決につながる可能性を残す行為でもあります。

スーパーナンペイ事件は、物証が全く存在しない事件ではありません。

しかし、残された物証や証言を、特定の人物と犯行まで結び付ける最後の証拠が不足しているため、未解決の状態が続いていると考えられます。

調査とは、疑いを強めることではありません。

一つひとつの事実を確認し、第三者が検証できる証拠として積み重ねることです。

東野調査事務所では、先入観や噂によって結論を出すのではなく、客観的な事実と証拠を重視しています。

疑わしいことと、証明できることは違います。

その違いを意識しながら調査を行うことが、依頼者の利益を守り、誤った判断を防ぐために不可欠であると考えています。